懐旧の寛ぎRelaxation of Retrospective.

設計データData

竣 工 2014年 坪 数 30坪(施工床32坪)
場 所 京都府船井郡 工 法 伝統工法
種 別 改築 構 造 二階建

エピソードEpisode

以前に設計をさせて頂いたお客様からご紹介頂いた物件で、伝統工法で作られた民家の改築工事です。
竣工は一年前ですので、まだ出来たてなのですが、ほっと懐かしく感じる建物に仕上がりました。

古民家の大規模改修は何件かさせていただいた事が有りますので、イメージをする事は容易だったのですが、コストも考えつつも、遊びの有るゾーニングを考える事に時間をかけました。
出来あがった空間は何とも言えない素晴らしい空気感を持っていますので、詳しくご紹介させて頂きます。

『ステンレスのキッチンと薪ストーブの生活が欲しい!』

最初に持たれたご希望はこの二点でした。
キッチンや薪ストーブは一旦設置した後、将来的に床をリフォームすると、かえって工事費がかさんでしまいますので、この機会に床も無垢の床に貼り変える事にされました。
床をやりかえる際に、襖で細かく仕切られた間取りも改善する事や、ついでに水廻りも・・・となり、最終的には大規模なリフォームを英断して頂きました。

リフォームは、気になった部分だけ工事を行うと、その時にかかるコストは抑える事は出来るのですが、近い将来の生活や設備・建材の寿命などをよく考えずに行うと、せっかく綺麗にしたところまで、壊して作り変える事になる事も多々あり、かえって金額がかかってしまった・・・なんてお話を良くに耳にします。
全体を俯瞰して見てくれる設計者に内容をご相談されるのが一番良いのではないかと、いつも思います。

  • 既製品のキッチンと薪ストーブが鎮座する
LDKのパース既製品のキッチンと薪ストーブが鎮座するLDKのパース

コンセプトConcept

まずは構造のお話です。
建物は阪神淡路大震災の直後に建てられた物件でしたので、それなりに強度の有る構造である前提で設計させて頂き、極力現状の主要な構造部に手を加えずに、耐力壁の追加や水平構面などの補強を行う事で、耐震性を強化する計画としました。

現況ですが、見える部分には綺麗な材料を使用してあったのですが、床下など普段見えない部分は、比較的微妙な事(笑)になっていました。
コストの事も有り、床下の部材(根太など)を残して施工する計画も有ったのですが、床下からの湿度をシャットアウトする為に、防湿フィルムとコンクリートを全面に打設し、新規に床下をやり直したうえで、限界いっぱいまで断熱材を敷き込む事にしました。
柱などは、築年数が浅い事も有り、シロアリの被害や腐敗はほとんど見つかりませんでしたが、必要な部分に金物が不足していましたので、効率的に補強しています。

意匠的には、天井を撤去すれば、現れるであろう・・・と予測していた梁を生かして、ダイナミックな空間を創る事を考えました。

また、風通しと明るさを確保する為に、一部の屋根を撤去してデッキスペースを作り、ライトコートを挿入しています。

同じ角度からライトコートを見ると天井の印象で大きくイメージが変わるのがわかります。
同じ角度からライトコートを見ると天井の印象で大きくイメージが変わるのがわかります。
※全く同じ位置からの写真です。

存在感の有るキッチンは1.6㎜厚の304ステンレスを曲げ・溶接して制作しています。当初非常に高額になったので、コストダウンに一工夫しました。
キャビネットに全て既製品を利用する事と、ダイニング側の収納扉の枚数を上下2段にして、枚数を抑える事などで、オールステンレスのフルオーダーキッチンと比較すると半分程度にコストダウンする事に成功しています。

溶接し、磨かれたシンクの角部分と、304ステンレスのバイブレーション仕上げの天板の表情
溶接し、磨かれたシンクの角部分と、304ステンレスのバイブレーション仕上げの天板の表情

古民家の増改築に真面目に取り組むと、非常に手間がかかる半面、新築には真似の出来ない歴史を感じる空間を作る事が出来ます。
先日、一年点検と完成写真の撮影にお伺いしたときに、訪れたお客様が『いいね』とか、『旅館みたい』(?)とよく言われます・・・という話をお聞きしました。
おほめに預かり、嬉しい限りです。

弊社の所員は
『いますぐここに住んでも、すぐにリラックス出来そう♪』
・・・と申しておりました。
言い得て妙です(笑)

新築よりも、むしろ増改築こそ総合的(コストや構造の知識、業者との調整など)な設計力が問われると思います。

今現在、古民家の改修工事の真最中のATTIC辻井でした。

  • 開口補強・断熱補強・耐力壁の設置・開口補強・断熱補強・耐力壁の設置・水平構面の作成する現場風景
  • 左)梁を生かして、ダイナミックな空間左)梁を生かして、ダイナミックな空間
    右)ライトコートから光が降り注ぐデッキ
  • FLOSのペンダントGLO-BALL S2が浮かぶFLOSのペンダントGLO-BALL S2が浮かぶ和とミニマルが融合した空間
  • 細部のディティールにもこだわっています。
    細部のディティールにもこだわっています。