豊かな量感Rich massive

設計データData

竣 工 2014年 坪 数 施工床15坪
場 所 京都府 船井郡 工 法 伝統工法
種 別 改装工事(一階部分) 構 造 木造(伝統工法)

エピソードEpisode

相当の築年数が経過した伝統工法の一戸建ての改装工事のご依頼を頂きました。

OBのお客様のご自宅をご覧になった事がきっかけで弊社をご紹介頂き、お仕事をさせて頂く事になりました。

地方においては、ご近所の大工さんに工事をお願するのが通常で、近所ではない会社に依頼するだけで近隣の大工さんに『角が立つ』場合も少なくありません。

事情をかんがみて、今回は工事前にご近所の大工さんに工事をさせて頂く旨のご挨拶をさせて頂き、承認頂いてから、工事に入らせて頂きました。

こちらの住宅は、地元の大工さんによって何度かの改装を重ねられていたのですが、隙間に新聞紙を詰めるなど、良いとは言いにくい工事もされていましたので、全面的に撤去してのやりかえ工事になりました。

改装工事は、実物大での打ち合わせが出来る事から、実際のスケール感を把握して頂きやすいと言うメリットが有ります。

順調に打ち合わせは進んだのですが、いつものごとく改装工事ならではの問題が出てきます。
『全て綺麗にしたくなる』事と、『コスト』のバランスです。

紆余曲折有りましたが、無事打ち合わせを終了して最終金額を確認して頂き、着工に入りました。

ちなみに地方の大工さんに依頼する場合には、それなりの『予備費』をもっておく必要が有るそうです。

簡単に言うと、大工さんの見積もりは『感ピューター』による積算になる事も多い為、最終金額が多少変動するそうですので、『思ったより金額がかかったから、追加金額を下さい』となる事も往々にしてある様です。

古民家の改装の難しいところは、構造的に脆弱なところを効率良く補強していく事です。

建築には根治解決をしないと、トラブルを繰り返すと思われるところが有りますが、今回のケースでは床下の湿度のコントロールをする事が重要でした。

床下全面に防湿フィルムとコンクリートの打設する事によって、まずは柱の根元の腐蝕を止めつつ、ブロックや木片の上に乗っているだけの柱脚に鉄筋コンクリートで基礎を作り、追加した柱と合成する様な補強を施しました。

防湿コンクリートを敷き詰められた床下と、束石から鉄筋コンクリートに置きかえられた基礎の写真
防湿コンクリートを敷き詰められた床下と、束石から鉄筋コンクリートに置きかえられた基礎の写真

左)木片の上にチョコンと半分乗っかっている既存の柱脚・・・怖いです。右)ぼろぼろになっている柱脚は取り替えます。
左)木片の上にチョコンと半分乗っかっている既存の柱脚・・・怖いです。
右)ぼろぼろになっている柱脚は取り替えます。


先ずはジャッキアップして上部の荷重を支え、ボルトにて新しい4寸角のヒノキ材を沿わせて緊結します。腐った柱脚を取り替え、スクリューワッシャーを使って『根継ぎ』を補強します。


通常は座彫りとボルトによる補強をするので、柱から出っ張らない様にするには『座彫り』と言って、大きく柱を掘り込みますがこちらは断面欠損しない特殊なボルト『スクリューワッシャー』で固定しています。

一般的には金輪継ぎと言われる仕口を使う取り替え方法が多いのですが、今回は相欠継とし、M12ボルトでガッチリと固定する事にしました。

上から下までボルトを閉め込んで補強完成です。


隙間が多く寒かった床下や壁に断熱材を入れ、気密性と断熱性を持たせました。

  • 周辺は、猿や熊が闊歩する山々に囲まれています。周辺は、猿や熊が闊歩する山々に囲まれています。

コンセプトConcept

基本的には、玄関とDKの改装です。
古民家独特の、防湿の為に高く上げられた床の段差を出来る限り解消し、現在の暮らしに即した動線に整理、変更してバリアフリー化します。

『タタキ』と言われる土間をタイル貼りに変更し、掃除をしやすくして、1/3をフローリング貼りに変更しました。

ベニヤ板貼り仕上げの斜めになった階段の裏側を吊り床の様に見せて、料亭の玄関の様な雰囲気を演出してみました。

玄関のビフォーアフターを同じ角度から。
玄関のビフォーアフターを同じ角度から。

煩雑なDKは天井を撤去して天上の梁を見せて解放感をいっぱいに。
キッチンは入れ替えて快適に。寒さに備えて床暖房も採用しました。

DKのビフォーアフターを同じ角度から。
DKのビフォーアフターを同じ角度から。

キッチンの後にはパントリーを設けて、収納を充実させる事で美しく保ちやすくします。

ハッとする色合いの壁紙は、ウイリアムモリスの柄。鮮やかな壁紙の採用は、雑然とならざるを得ない場所に効果的な手法です。
ハッとする色合いの壁紙は、ウイリアムモリスの柄。
鮮やかな壁紙の採用は、雑然とならざるを得ない場所に効果的な手法です。

キッチンは和にマッチするトーヨーキッチンを採用し、お料理の上手な奥様をサポートします。


キッチンの横の出窓には食器棚を作り付け、ステンレス製の作業台と収納を造り付けしています。


ダイニングテーブルはウォールナット材の別注品。
快適性の高い、ゆったりと座れる椅子が6脚置けます。


大がかりな工事は、それなりの金額になりますが、ご夫婦がこの場所で齢を重ねられた時に、色々な意味で快適に過ごせるように・・・と考えた場合、後のメンテナンスに費用がかさまない様に、構造などの問題を根治解決して、将来を見越した設計とする方で、何年かおきに、リフォームを行わなくて済みます。

少し長いスパンでみた場合、こちらの方が必ずお得になりますので、おすすめです。

工事中、奥様が仮設のキッチンにも関わらず、色々な食べ物を作って下さいました。
大工と私のお気に入りは、チャーハンとイモケンピで、今でも美味しかったなー・・・と時々思いだします。

その節はごちそうさまでした。

現場管理中に時々猿や熊の出没情報が放送されたり、日が暮れた帰り仕度中に、暗闇から響く、なにかしらの獣の鳴き声を聞いてビクビクしたりもましたが、今となっては良い思い出です(笑)

猿の怖さは今一つわかりませんが、熊は怖い ATTIC辻井でした。

  • 玄関収納を追加しました。玄関収納を追加しました。